白雪を頂き高くそびえる山々を背景に、緑の森と蒼い
海に囲まれ四季折々の花に溢れた美しい街、バンクーバー。
気候がカナダの中では比較的温暖なうえ、新鮮でおいしい
シーフードをはじめ、日本食、チャイニーズやイタリアンなど
の食材が、何不自由なく手に入る。その恵まれた環境と治安
の良さをかんがみると、日本人がこの街を「世界で一番住みた
い場所」に選んだ事実も容易にうなずけます。
幸運にもそのバンクーバーで生活するようになって、まず印象
的に目に映ったのは、シニア達のエネルギッシュな姿でした。
最初に出会ったテニスのお相手、ジャックは82歳の愉快なおじ
いちゃんです。冗談好きで明るい彼は、負けず嫌いも伴い、まる
で少年のように何時も強気のテニスをしています。
同じクラブのリーグ・チームメイト、メアリーは今年71歳になるに
もかかわらず、スーパーシニア・シングルスの部門でブリティッシュ
・コロンビア州のチャンピョンの座を数年間守り続けています。
今でも若い時のように、攻撃的なテニススタイルをかえず、時々
コーチのレッスンを受けている姿を見ると脱帽させられます。
このように、シニア達が何時までも活躍出来るのも、35歳以上を
細分化した、つまり其々の年齢に応じた組で試合が出来るディビ
ジョン制度が場を提供しているからだと思われます。
「第一回インターナショナル・シニアテニス・フレンドシップカップ」(鈴鹿にて)
に参加したチームカナダの面々。中央の小柄な女性がメアリー
また、近所のコミュニティセンターのスペイン語クラスで知り合った
級友のほとんどが70歳以上のシニアです。何時までも向学心を忘
れず、新しいものにチャレンジしている彼らの姿に、年下の私の方が
逆に励まされてしまいます。
このシニア達が日本に比べて大変恵まれていると感じることの一つ
は、大手のスーパーやデパートが週に一度『シニア・デイ』
を設けていることです。通常よりも5〜15%安く品物が買えたり、
スーパーでは一定額以上買い物をすると無料で宅配もしてくれ
るそうです。日本の社会制度との違いもあるのでしょうが、こんなエピ
ソードがありました。スペイン語の級友ブルースは昨年の春、職場で
引退の日を迎えました。彼はその日を指折り数えて待っていたそうです。
不思議に思い尋ねてみると、彼は「これからは自分のやりたい事だけが
できるからだよ!」と笑顔で答えてくれました。
その良い例が友人エミリアのご主人ジョンです。
彼は昨年カナディアン航空の機長を引退したのですが、今年は自家用
クルーザーでアラスカやハワイをエミリアと一緒に航海する予定だそうです。
私が出会ったシニア達は、生活環境や健康に恵まれた特別な人達なの
でしょうが、彼らの溌剌とした前向きな生き方は私にこう語りかけている
ようです。
「人生を存分に楽しみなさい!」と。
1997年 スペイン語のクラスメート達と我が家でホームパーティ
このエッセイは1998年 Marubeni Group Magazine
りえぞーん「Liaison」No.63に掲載されたものです。
後記
残念ながら、帰国後、バンクーバーから次々と悲しい
知らせが届き、ロジャー、ボブ、そしてヘレンが天国に
召されて行った事を知りました。沢山の楽しい思い出を有難う!
心から彼らの冥福を祈ります。 2004年記